海洋発電の話題 2011年7月18日(海の日に)  吉澤有介

 海は地球表面の約7割を占めています。その深さも最も深いマリアナ海溝で10920
m、平均でも3700mといいますから、海水の体積は実に膨大で、太陽のエネルギー
をいっぱいに受け、しかも地球の自転の影響もあって常に動き続けているのです。
しかしその実態はまだ十分にはわかっていません。

 深層水の動きについて、ブロッカーは壮大なコンベアベルト論を提唱しました。
それによるとアラスカ沖から太平洋、インド洋からアフリカ南岸を越えて北大西洋
まで達して反転し、オーストラリアの南を回って一巡するといいます。
しかもその周期はおよそ
2000年という、全く気の遠くなるような話です。
それほどマクロの流れは別にしても、海水は地球の自転による貿易風や季節風の影
響で大きな海流となって移動しています。
その最強の海流が日本の南岸を洗う黒潮で、速いところでは4ノット(秒速約
2m)
にも達します。これは短距離の水泳選手の速さとほぼ同じくらいになります。
海面は風で波立ち、さらに月の引力による毎日
2回の潮汐の流れもあるので、海洋エ
ネルギーはいわゆる自然エネルギーの中でも最も大きな地位を占めているのです。

日本はその海で、経済的排他水域を含めると世界で6番目の大国なのです。
ところが不思議なことに、日本政府のいう新エネルギーの中に、この海洋エネルギ
ーは含まれていません。
そのため国策としての開発は、欧米などに大きく遅れることになってしまいました。
しかし各大学や自治体、企業などの地道な研究が、ようやく実を結び始めています。
311の東北大震災後の脱原発への新エネルギーの有力候補としての、海洋エネルギ
ー活用状況をここにご紹介しましょう。

  1. 海洋エネルギー活用の種類

 (1)海洋温度差発電
 これは海洋表面の温水と、深海の冷水との温度差を利用して発電する仕組みである。 

    (2)   潮力・潮流発電 
干満の差の大きい地域での潮汐流や、黒潮などの強い海流を利用して発電するもの。

  (3)  波力発電 
海水の持つ波のエネルギーを捉えて、その上下動を発電に利用するもの。 

2. 海洋温度差発電について

(1)概要  熱帯の海面は強い太陽熱で25℃以上に熱せられているが、海面下1000
の深層水は
10℃以下の低温を保っている。
この温度差を利用して熱機関を動作させる。
20℃の温度差が得られる地域ならどこで
も可能である。熱機関の原理はごく一般的なので、
19世紀後半から開発されてきたが、
熱交換の効率化に手間取り、実用化の事例はまだ見かけない。

 (2)日本の取り組み 佐賀大学の上原春男教授のグループが、1994年にアンモニア
と水の混合媒体を冷媒に用いた「ウエハラサイクル」を発明した。
従来のランキングサイクル(純アンモニア方式)と比較して
5070%サイクル熱効率
が向上して、実用化に一歩近づいた。
これを受けて東京都の石原知事が、沖ノ鳥島に実験プラントを建設する計画を発表し
たが、まだ実現には至っていない。
技術的に深海からのパイプ輸送設備の問題もあるが、国際政治問題も課題になってい
る。また送電距離からみても可能性は低いだろう。

(3)電力コストの試算まだ実用例がないので試算にとどまるが、一説によると補助
金を受けた風力発電と同等だが、原子力発電には及ばないとされている。

 2.潮力・潮流発電 

(1)概要 潮力発電、潮流発電ともに海流のエネルギーで水中タービンを回すも
ので、設置地域と設置方式が異なっている。潮力利用の場合は、一般的に潮汐流を捉
えるために特別に堰を構築して、水力発電の方式を採用している。
これは欧州に実用例が多い。ただ堰によって潮流を大きく変えると、生態系に影響が
出ることが懸念される。
 潮流発電は特定の地域で、海中に固定設備を構築して水中タービンを回すもので、
海流としては
45ノットが最適とされる。
潮流の場合、風力の空気に比べて
800倍の粘性があり、しかも非圧縮性なので、うま
く捉えれば強い力を発生することができる。

(2)各国の設置例・フランス
   

ランス潮力発電所(堰方式)、1966年に建設した。世界最大規模である。
ランス河を堰きとめ、潮位差平均8m、最大135mを利用する。
タービン24基、最大出力240MWで、建設コストはすでに回収すみ、
発電コストは原発並みとのこと。

     韓国
西海岸江華島に最大812MWの潮力発電所が進行中。総工費2300億円、
三つの島をつなぐ7795mの堰を建設、32基のタービンを回す、
2012
年完成予定で、完成するとこれが世界最大規模となる。

      ノルウェイ
クバルスン潮力発電所、クバルスン海峡の潮流を利用(水中タービン)
潮流速度35ノット、10m径のプロペラで年間発電量70KWという。
この他 イギリス、アメリカ、ニュージーランド、カナダなどに建設が進められている。 

 (3)日本の事例   ベンチャー数社が開発しているが、まだ実用例はない。

・兵庫のノバ・エネルギー社(定年退職技術者
4人で設立)
マグロ型本体にプロペラ、繋留式、潮流に合わせて向きを変える、
潮汐力利用に向いているようだ。

・ループウィング社(東京)特殊タービン翼を開発、海中に固定する構造。

2MW
の試作機で実用化をめざしている。船舶用技術に強い。

 潮汐力の利用では、瀬戸内海が注目される。鳴門海峡での流速は11ノットにも達し、
いくつもの海峡や瀬戸には潮流に時差があるので、電力の平準化も期待できるだろう。
 黒潮には十分な速度はあるが、場所によって大きく蛇行する場合があり、また漁業
権との調整も考慮する必要がある。

  3.波力発電

 (1)概要  
波力発電は海水の波のエネルギーを利用する。
波は周期別に次のように分類できる。
表面張力波(周期01sec以下)、
短周期重力波(周期
01~1sec)、
重力波(周期
130sec)、
長周期重力波(周期
30sec~数十分)、
長周期波(周期
5分~12時間)である。

 波力発電はこのうちの重力波を対象としている。
波エネルギーは、波高の2乗に比例し、周期に比例する。
日本の場合、太平洋沿岸が定常的な波が多く利用しやすい。
 実用化の歴史は1940年代の故益田義男氏の研究にはじまり、航路標識ブイの電源
として、全世界で広く利用されている。
定置式の発電としても、日本は世界に先駆けて
IEAと共同で、1975年より1987年に
かけて山形県鶴岡市由良沖で、浮体式発電装置「海明」の実験が行われ、年間
190
MW
の発電と陸上への送電に成功した。
さらに海洋科学技術センターが浮体式「マイテーホエール」を三重県沖で実験した
2003年に終了したままになっている。
 しかし1991年に欧州委員会で、波のエネルギーを再生可能エネルギー開発の一つ
に位置づけたことで、世界の波力発電開発環境が劇的に変化した。
実用化に向けて多くのプロジェクトが進行中で、現在最も注目される領域となって
いる。

(2)波力発電装置の分類

  ・可動物体型

    波エネルギーを浮体を介して油圧に変換し、油圧モーターで
発電する。

 ・振動水柱型    海面の上下動を空気圧の振動に変換し、空気タービンを回す。

 ・越波型           波を貯水池などに越波させ、その落差でタービンを回す。
北欧に多い。
 さらに最近は、日本からジャイロ方式や、つるべ方式などの新技術
が提案されている。 

(3)海外の動き欧州では1990年代半ばから開発が活発化している。
目標とする装置の規模は、小規模で最大2MW程度、浮体式が多くなっている。
開発の主体も小規模なベンチャーで、支援体制の整備が進んでいる。
ポルトガル、イギリス、デンマークなどで振動水柱型の発電が行われているが、オ
ランダのベンチャーはリニア発電機を直接駆動する方式を開発した。

(4)日本の波力発電装置開発の現状 国策としての開発は「海明」と「マイテー
ホエール」の後中断したが、大学など各方面で開発研究が活発に進められている。
その概要を紹介しよう。
 
・佐賀大学海洋エネルギーセンター 2002年に設置され、19名の体制で海洋エネ
ルギーの創造のための基礎研究、応用研究を行っている。
海洋エネルギーに関する全国共同利用施設を
2005年から運用開始した。
IEA(国際エネルギー機関)の海洋エネルギーに関する日本代表である。
総括的な論文を多数発表している。
新技術としては「後ろ曲げダクトブイ」、浮体式振り子式波力発電」などを実験し
ている。

・神戸大学のジャイロ式波力発電システム
 神吉博名誉教授は宇宙ステーションのコントロールモーメントジャイロ技術を応
用して、波の上下動を回転運動に変換するシステムを開発した。
2008年、和歌山県すさみ町沖で実験に成功した。
試作機は
10m*10mの浮きの上に発電機を載せ、40KWの発電ができた。
これは一般家庭で3040世帯分の電力に相当する。
発電コストは
30円台/KWHで、従来の空気圧式の17以下になる。
米、
EU、日本の特許を取得した。

・山口大学の「つるべ式波力発電」 1m径*2mの浮体と錘をワイヤーで海面に吊
り下げ、その上下運動で発電機を回すもの。

このほか、日本大学で人工筋肉を使ったものもあり、小規模での地産地消をめざして
いる。

・三井造船 出光興産、日本風力開発と共同で、太平洋沿岸に国内発の波力発電所を
建設し、
2012年をメドに稼動させる計画を発表した。
東京都も協力する。出力
2KWをめざす。
陸上から
10Km沖、水深50200mの洋上を予定、建設費10億円を見込んでいるとい
う。
 さらに開発推進機構としては、次のものがある。

 ・海洋エネルギー資源利用推進機構(OEA-J
 2008年発足、会長は東京大学木下健教授、事務局は佐賀大学。

・東京都波力発電検討会 委員長は東京大学荒川忠一教授、平成223月に報
告書を発表している。具体的には伊豆諸島近海で、
100億円の投資で10MWの発
電が可能という試算を示した。年間
5兆円の産業になりうるとのこと。
これはネットで閲覧できる。
この中で自然エネルギー間のコスト競争力を比較した、米OPT社の試算例が示
されている。
太陽光発電(50134/KWH)、太陽熱発電(2434/KWH)、風力発電
816/KWH)に対して、波力発電(15/KWH)となっており、一つの参考
としても興味深いものがある。
以上

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