図解「これならできる山づくり」人工林再生の新しいやり方 2015年6月9日 吉澤有介

「これならできる山づくり」人工林再生の新しいやり方  鋸谷 茂・大内正伸共著 を要約紹介したものです。
本書は、旧来の森林施業に疑問を感じている方々へ、日本の山を変える新たな森づくりを提案しています。林家にも、また森林ボランテアにも、手引書として便利に使えるようやさしく図解してあるのが特徴で、日本の自然の特性をうまく活かした、まことに合理的な指針となっています。手入れの遅れた人工林の再生に、きっと役立つことでしょう。
著者の鋸谷氏は、福井県の職員をしながら水田1,5ha、山林25haを管理する兼業農家であり、兼業林家でもあります。そこで考え抜いて行き着いたのが、「鋸谷式間伐法」でした。
その事例の一つが、群馬県鬼石町の「桜山」です。ここは冬桜の名所ですが、山頂付近を残してすべて戦後の拡大造林をしたまま、手入れの遅れた死の森となっていました。山主のKさんの要請で取り組んだ著者は、この人工林を①疎らに(50%以上)間伐し、②空いた空間に広葉樹を呼び込んで、③針葉樹と広葉樹の複層・混交林にすることを目指しました。作業は極力減らし、間伐した木は切捨て、そのまま放置する。強度の間伐で、残った木が雪折れなどの恐れがあるときは、「巻き枯らし間伐」をして、立木のまま支えることにしました。その結果、森の空気が劇的に変化したのです。林床に光が入って春にはスミレが、夏にはドングリの若木が生えてきました。植物が豊かになり、トンボやチョウに小鳥も増えて、10年で森はすっかり蘇ったのです。いま全国からの見学者が絶えません。
鋸谷式では間伐に際して、まずツル切りをし、切る木でなく残す木を決めてテープを巻くのです。その基準は、健康な木を形状比(高さ/太さ)で割り出します。この値は70が目安です。さらに4mの釣竿で円を画いて、その面積の中に残す木の本数を決め、その木だけを枝打ちする。無印の木はすべて伐採するか、巻き枯らしします。そして10年そのままにするのです。手入れは全くしません。10年後に次の間伐をして大径材を育てます。
そうした大径材の生産は、今の人工林を健全な森に変えてゆくと自然にかないます。
初期に間伐した細い木は、そのまま放置すると表土の流出を防ぎ、その空間は新しい芽吹きの環境をつくります。さらにシカなどの障害物として侵入を抑える役割を果たします。
間伐材の搬出には、ムリに手間をかけない。林道沿いなどのやさしい場所だけ、胸高径40cm以上の価値ある木だけで十分でしょう。あえて間伐材にこだわらない。著者は、やたらに作業道までつくる、補助金まみれの間伐材搬出に疑問を持っています。将来に負担を残さず、気軽に森と暮らす林業スタイルを創出したいのです。手間は極力かけません。
本書では、日本の森の生態に合った、植林しない森づくりを目指しています。植生遷移のスピードや最終的な形態は、その山の自然条件に左右されます。しかし人為的に早めたり、目的の樹種を残したりしてゆくことは可能です。誘導林というやり方で、健全な深い森にしてゆくのです。著者はその実践に、細かい計数を使った合理的な手法を提示しています。根拠も明確に示しているので、納得の上で作業を進めることができるのです。一つひとつをわかりやすく図解してあるので、森林ボランテアなどでも安全に楽しく取り組むことができるでしょう。多くのことを教わる好著でした。すでに版を重ねています。「了」

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