「キノコの教え」小川 眞著2014年12月10日 吉澤有介

 キノコは、木の子供からきた呼び名ですが、正しくは菌類が地上に出した繁殖器官のことです。菌類は、植物のように光合成によって炭素化合物をつくることができないので、土や落ち葉、樹木などの中に潜りこんで菌糸を広げ、栄養を取ってひそやかに生きています。その木材腐朽菌は森林を更新し、落ち葉分解菌は小動物を育てます。菌類の中でも進化した仲間がその子実体という繁殖器官を地上に出して、無数の胞子を飛ばすのです。

 菌類は、その栄養の取り方が植物とはまるで違っています。6億年前に生まれたときから葉緑素を持たなかったので、他の生物に依存して生きるしかありませんでした。従属栄養生物なのです。なお動物や多くの細菌も従属栄養生物です。糸状細胞でできた菌類は、植物のように動くことができず、動物のように他の生物を餌にせざるをえない宿命の下にありました。菌類は、植物でもなく動物でもない、不思議な生物なのです。

 キノコというとすぐ食べられるか、毒がないかの見分け方が問題になります。しかしこれには全くルールがありません。色が派手でもおいしかったり、茎が裂けても毒があったりします。ただおいしいキノコは、タマゴタケやオオシロアリタケなど、小動物の死骸や排泄物を餌にしたものが多い。やはり少々わけありなのだそうです。

 またキノコには、なぜか重金属を好んで吸収する性質があります。これは放射能汚染で問題になりました。チェノブイリ事故の際に欧州各国で大規模なセシュウム汚染が確認されたのです。3.11の福島でも、野生のキノコに高濃度のセシュウムが検出されて、採集と販売が規制されることになりました。菌根菌の多くは、落ち葉の下の浅いところで暮らすので、セシュウムを生体濃縮しやすいのです。地域によっては、残念ながら長く危険が残ることでしょう。キノコは放射性物質の鋭敏な指標生物なのです。

 キノコはまた私たちに環境異変を告げていました。急速に拡大したナラ枯れを佐渡で調べてみると、菌根菌が消えて木の根が腐り、コナラやマツ、それにケヤキやスギまでもがボロボロになっていました。樹木の根は、菌類と共生してはじめて機能しているのです。菌類が死ぬと樹木は生きてゆけません。しかしそこに驚くべき救世主が出現しました。
 木炭や竹炭を粉末にして散布すると、樹勢が一気に回復するのです。重症の場合は、表土を剥いで根を露出させ、腐った部分を取り除いて炭粉で覆うと、死にかけていた木が一年以内に見違えるように健康になりました。回復した木の根元を掘ると、炭の中に若い細根が盛んに出て、菌糸と菌根が炭をつないでいました。炭は針葉樹のものが無難ですが、広葉樹のほうがミネラルが多く効果的です。竹炭はアルカリ性が強いので、雨ざらししてから使うのが良いそうです。炭は肥料ではありませんが、菌類を増やして樹木に活力をもたらしたのです。著者は多くの事例を紹介して、菌類に学ぶことを勧めています。「了」

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