アルコール生産に必要なエネルギーと認定発生炭酸ガス 廣谷 精

1.緒言

 バイオアルコール生産のライフサイクルアセスメント(LCA)を行う際、中心になるのはエネルギーと温室効果ガス(主として炭酸ガス)の計算になるが、人、文献により対象とするエネルギーや炭酸ガスの解釈が異なり、混乱が生じている。そこで京都議定書の精神に忠実な計算を行うためのエネルギーおよび炭酸ガスを明快に定義することを試みた。

2.生産するためのエネルギーと発生する炭酸ガスについての異なる解釈

バイオからアルコールを生産する際に、いろいろなエネルギーが必要になる。まず原料であるトウモロコシ、サトウキビを栽培するには肥料や農薬が必要である。また、耕運機、除草機などを使用する際は化石燃料を使用する。トウモロコシ、サトウキビ以外にセルロース(木材、バガスなど)から生産する場合もあるが、集荷、運搬には化石燃料を使う。セルロースを糖化するには薬品に加えて蒸気が必要になり、電気を使用する。発酵、濃縮、蒸留そして廃液処理にもやはり電気と蒸気が必要で化石エネルギーが使われる。  

 ところが電気や蒸気を化石エネルギーではなく木材やバガス、残留セルロース等を燃焼し蒸気で発電するケースにおいても化石エネルギーを使用した場合と同じ扱いをする例がある。バイオから発生する炭酸ガスの取り扱いを化石エネルギーと同様にする例もある。バイオマスから発生する炭酸ガスを化石燃料から発生するものと同じ扱いにした文献が堂々と発表されているのが実情である。バイオは炭酸ガスからの再生エネルギーであるからバイオから発生する炭酸ガスは別扱いにすることになっているが徹底されていない。京都議定書ではエネルギーと炭酸ガスの実質的な扱い方が明確にされていないため、人によってバラバラである。この点についての私なりの明確化を試みた。

3.炭酸ガスの循環

 バイオは炭酸ガスを吸収固定し、発酵によりアルコールに変わる。炭素のバランスは

バイオに含まれる炭素=発酵炭酸ガスの炭素+アルコール中の炭素+残留バイオに含まれる炭素

となる。バイオの炭素は空気から吸収し固定したものであり、発酵炭酸ガスは空に戻り、アルコールは自動車等で使用され、炭酸ガスとして空に戻る。残留バイオは廃液処理やセルロース燃焼あるいは微生物による分解で炭酸ガスになり、やはり空に戻る。このように、空と地の間で炭酸ガスの循環が行われている。(正確にはIPCCのレポートによると空に戻るのは97.7%)この循環に係わらないのはアルコールの生産に使用された化石エネルギーであり、この分は空気中の炭酸ガスの増加となる。したがって循環するバイオからの炭酸ガス、エネルギーは炭酸ガスの増加にはならず、カウントしない。無論バイオエネルギーを利用することは出来るが、それは化石エネルギーの減少として出てくる訳である。繰り返すが、バイオエネルギー燃焼の炭酸ガスは炭酸ガスではあっても循環過程にあるものは炭酸ガスの増加分としてはカウント出来ない。

4.エネルギー獲得の表示EPR

 LCA(Life Cycle assessment)ではEPR(Energy Profit Ratio)という評価項目が定義されてい。どれだけのエネルギーをどれだけの化石エネルギーから作りだしたかという評価尺度で次式で表現される。

EPR=(生産されバイオエネルギー)/(生産のために使用された化石エネルギー)

 エネルギーを生産する場合、出来たエネルギーはバイオエネルギーであるが、バガスや木材等のエネルギーを生産に使うケースもあるが、その分使用する化石エネルギーは減るので、そのエネルギーを獲得したエネルギーに加えると二重計上になり、入れるべきでない。また生産せれるエネルギー(アルコール等)はバイオのエネルギーであるが、目的以外に生産できたバイオエネルギー(セルロース燃焼等)はそのプロセスで明快に利用される場合でなければ入れるべきでない。

 EPRは、1以上は使用した化石エネルギーよりも作られたバイオエネルギーが多いということで、エネルギーを儲けたということである。1以下は化石エネルギーを無駄に使ったということになる。下記は著者が種々の文献データーから計算した結果である。

      トウモロコシ             0.58 ~ 0.98                                                                                    

      サトウキビ              7.60 ~ 9.30

      セルロース(木材、バカス等)   0.35 ~ 0.00

  サトウキビからのプロセスが極めて有利という結果になった。トウモロコシ、セルロース等はプロセス的にまだ工夫の必要があり、バイオから出来たエネルギーであっても再生エネルギーと云える状況になく、化石エネルギーの無駄使いである。

5.炭酸ガスの発生量

 EPRはエネルギーの比較であり、炭酸ガスが増えたのか減ったのかはわからない(関係はあるが)。是非炭酸ガスの増減を直接表示したい。もしバイオエネルギー(バイオアルコールなど)がなかったら皆自動車をどうするだろうか。バイオアルコールがなくても皆さん車の運転はするだろうし、運転するかどうかは別の次元の問題で決まる。車でも軽油を使う車、電気自動車もあるが、一般的に使われるガソリン車で使用される化石エネルギーの炭酸ガス排出量と比較ることによって、炭酸ガスの増減を示すことが出来るのではないか。そしてアルコールを生産する時に使用する化石エネルギーから排出される炭酸ガスと、アルコール燃焼したときと同じ仕事をガソリンで行うために石油からWell to Tankで排出した炭酸ガスとの比較で表すことが出来るのではないか、との考えでCDR(Carbon Dispersion Ratio)という評価尺度を定義してみた。

BSKCO2=(バイオエタノールを生産するために使われた化石エネルギーからの発生炭酸ガス)

GASCO2=(バイオエタノールと同じ仕事をガソリンでするWell to Tank の発生炭酸ガス)

CDR=BSKCO2/GASCO2

CDR>1 の場合はバイオアルコールでは炭酸ガスが増加する

CDR<1 の場合はバイオアルコールを使えば炭酸ガスは減少する

著者の計算では

トウモロコシ            1.40 ~ 1.90

サトウキビ             0.12 ~ 0.14

セルロース(木材、バガス等)  2.30 ~ 3.20

となtっている。この計算結果から、サトウキビの場合、炭酸ガスは減少するが、トウモロコシとセルロースではまだプロセスの改良が必要ということになり、今の技術ではバイオアルコールとはいえ炭酸ガスの減少に貢献できていないということになる。

6.残留バイオの比較RCR

 空中の炭酸ガスはバイオに吸収固定され、幹になり、実になり、葉になり、澱粉になり、糖になり、セルロースになる。これらはアルコール生産時、発酵し炭酸ガスになり、やがてアルコールになり燃焼して炭酸ガスになる。しかし炭素はそれで終わりではない。残りの炭素は残留バイオとして残る。廃液処理によって炭酸ガスになったり、、場合によっては放置され、微生物に分解され炭酸ガスに戻る。炭素がどのくらい残っているか知りたいところである。RCR(Residual Carbon Ratio)という評価尺度を定義してみた。つまり

RCR=(バイオが吸収固定した炭酸ガス-発酵炭酸ガス-アルコール燃焼炭酸ガス)/(バイオが吸収固定した炭酸ガス

である。この値が大きい場合は廃液の処理に工夫凝らし、出来るだけ炭酸ガスが出ないようにすることが必要である。著者の計算では

   トウモロコシ            0.84 ~ 0.85

   サトウキビ             0.59 ~ 0.65

   セルラーゼ(木材、バガス)  0.71 ~ 0.91

となった。この値でみるとトウモロコシ、セルラーゼからのアルコールは残留バイオの処理が大切と考えられる。

7.結

 LCAの検討を行う場合、EPRを明確にし、エネルギーおよび炭酸ガスの使用値をわかりやすくして、計算する人によってエネルギーや炭酸ガスについて、異った数値を使用することのないよう、京都議定書の精神に基づく、考え方、計算方法について考察した。

 またEPR,CDR,RCR等の評価尺度によって、エネルギーの損得、炭酸ガスの増減が一目瞭然、わかるようにした。さらに残留バイオの量が分かるようにした。CDR,RDRは著者がこのたび提案した新しい評価尺度であるが、多くの方々に活用していただけることを願っている。

(廣谷 精記)

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