エネルギー戦略:ドイツと日本の差 2011年7月11日 福島 巖


福島原発事故が発生してから世界各国でこれからのエネルギー政策を巡って議論
が戦われている。自然エネルギーを推進しているドイツと原子力を中心に進めて
きた日本との差がどこにあるか簡単にまとめてみる。

ドイツの原発に対する考え方

1986
年のチェルノブイリ原発事故により住民の異議申し立てが続き、使用済み核燃
料の廃棄処理、テロや戦争の危険性、天災、人間の操作ミスなどによる危険性が排
除できないと考え、賛否両面から活発な議論が行われてきた。


1993
年の世論調査では原発に対し次の状況であった。
     :賛成41%(推進9%、現状維持32%
     :反対56%15年以内停止35%、即時21%
   保守党が賛成、社会民主党、緑の党が反対していた。
 今回の福島第一原発の事故により国の方針として原発からの撤退を正式に決めた。 

ドイツのエネルギーに対する基本的なスタンス

 (1)高濃度放射線廃棄物の処理が技術的に未解決
         ― 到着空港がないまま飛び続ける旅客機に例えている ―
      何世代にもわたって原子力に頼るのは危険である。

 (2)人間がエネルギーをうまく活用すれば原子力の必要はない

日本の一人当たり電力消費は約9%多い(対独)

原発推進国の仏、米、露共に同様の傾向だが電力の消費が多くムダに使われてい
る。
過去の例でも資源の無い日本が工業界で世界をリードできたが米露はムダを
排除できず後退していった(自動車産業の例)。

2010
年度の国民1人当たりの年間使用電力は
            日本約
8,010kwhに対しドイツは7,340kwhである。
日本は電力の節約や使用効率を上げるために改善すべき点がまだ多く残されてい
る。オール電化製品のように電力を熱に変換するのはエネルギー効率上からは問
題がある(直接熱をとると
90%、電気だと30%位の効率)。

日本は風力や太陽光発電など輸出するような高度技術を持ちながら化石燃料を大
量に輸入して発電に使っているのは矛盾であると指摘されている。
 

日本の自然エネルギー使用比率(2010)
                                   
日本         ドイツ                  世界ランク               参考
風力発電(Mw          2,304       27,333                     12      スペイン:日本の10
地熱発電(Mw           536                                   8                   発電能力のみ
太陽発電(Mw          3,664       16,516                   3                   人口あたり5
自然エネルギー(%) 1.2        17.0
                                   世界ランクは日本の位置を示す。 

ドイツのエネルギー源の多様化と効率化の追求

巨大な時間をかけて作られた化石燃料は21世紀前後のごく限られた人々によっ
て使い果たされようとしている。
今後生きていく人類のためには安全で、持続可能な、多種類のエネルギー源が
必要になるとの判断からドイツは自然エネルギーに注目し研究開発を促進して
いる。

最初に取り組んだのは太陽光発電と北海の風を利用した風力発電である。
2000
年から開始した電力買取り制度は新エネルギー発電に対して一般家庭用電
気価格の3倍程度(
6178/kwh)の料金設定で優遇した。
技術の種類やプロジェクト規模などにより細分化し、部品供給の観点から最低
でも
10年間は継続する条件になっている。
この政策により農民から企業家まで多くの人が新しい電力の開発に参画し、
2010年度実績に見られる17%にまでアップしてきている。

 ドイツ風力発電推進第一人者(Paul Gipe氏の意見)

原発を推進するか、自然エネルギーを開発するかの選択は国の将来をかけた大問
題。
日本には技術力があり、教育の行き届いた人材豊富、ドイツとの差は自然エ
ネルギー利用促進の制度があるか、無いかの差だけである。

日本の力からすると自然エネルギー開発に軸足を移せば、10年後には福島第一で
失った電力(6基、
30Twh)の4倍相当(120Twh)の発電が可能になる。
ドイツが推進してきたこの制度により、農民から大企業まであらゆる分野の人達
が恩恵を受け潤った。
原子力は巨大な少数の企業が潤うだけである。

Twh
はテラ(1012whを示す。

 ドイツの最大雇用創出産業は山林・木材関連業

人工林の面積は日本とほぼ同程度であるが丸太の生産量は4倍強である。
作業道網を根気よく拡大し、作業機械を導入して生産コストを下げてきた。
山林現場から住宅、家具製造に至るまでの木材関連雇用数は約
100万人、自動車産
業の
77万人をはるかに越える業界になっている。
再生可能エネルギーとして木材の使用が活発(1次エネルギーの
4%)で薪、チッ
プ、ペレットなどの形でスト-ブやボイラーに供給され熱や発電にまで利用されて
いる。
燃焼効率も飛躍的に向上し空気量コントロールでほぼ完全燃焼を達成している。

日本も工業製品が国民に行き渡った現在これらの生産が落ちるのは止められない。

燃料、食料といった海外から輸入し続けた品物を自給できるよう工夫し、国内雇
用を増加していくのがこれからのビジョンであると考える。

電力供給網

ヨーロッパの場合各国の電力網は複雑ではあるが全部が繋がって大きなネットを
作っている。
そのため太陽や風力のような外乱に対して対応能力が高くなっている。
また対象範囲が広いため自然条件を平準化できるメリットも持っている。
もっと融通可能になるようグリッドの改善や高圧地下配線ケーブルの実験などに
鋭意取り組んでいる。

日本の場合は原発が発電の中心として扱われてきた。
今回の事故までは安全神話が生きていてベース電源として夜間の余力分は揚水発
電とかオール電化としてバランスをとってきた。


日本の最大の問題は電力供給網

現在の地域電力会社が製造と供給を一手に取り扱う体制では次の問題がある。
(1)大電力会社の管轄内では自然エネルギーのような不安定な電力源は外乱に
なるだけで排除したい。

(2)日本の電力網全体
自分の管内の安定性維持が最大課題で過不足に対する電力会社間の融通とかコス
ト競争をするといった生産会社としては当然なことをやってこなかった。
そのために会社間の送電能力が小さく、串刺し状のネットになっていることと西
と東で周波数が違っていることも問題を更に大きくしている。

自然エネルギー買取り制度ができても抽選に当たらないと買い取ってもらえない
というのが現状である。

 自然エネルギー促進に当たって考慮すべきこと

(1)原子力発電に対する国民のコンセンサスを得ること。
自然エネルギー開発や配電網の構築、スマートグリッドの導入などに時間がかか
るのでそれまでの繋ぎとして稼動させるものの、将来的には撤退の方向で考える。

基本理念が明確でないと政策が動き出さない。

(2)既存の大電力会社は残るものの新たに参入する中小の電力会社との競争を
展開できるようにする。競争力がつくまでは自然エネルギー買取り制度を使って
支援する。

(3)送電網と電力供給管理は国道や高速道と同様、国家で行う前提で現在とは
別の地域電力供給会社を作って電力供給業務を行う。
送電網の構築やスマートグリッドの投資はこれらの会社に任せる。

地域の小規模送電網では直流専用の系統や低品位電力専用系統も考慮に入れる。
水に飲料水と雑用水があるように電気も照明、発熱などに使うのと制御専用の高
級品質があっても良い。
またより広範囲な接続、中国や韓国などとも補完しあえる大送電網の開発にも着
手すべきであろう。
これら配電網の拡充は現在の電力会社ではできない種類の課題である。

以上         

カテゴリー: K-BETS知恵袋(Q&A) パーマリンク