「生物のなかの時間」西川伸一、倉谷滋、上田泰己 共著 2018年4月30日 吉澤有介

PHPサイエンス・ワールド新書2011年4月刊

- 時計遺伝子から進化まで -
本書は神戸にある理化学研究所の発生・再生科学総合研究センター(理研CDB)に所属する、世代を超えた3人の気鋭の研究者による対談です。
西川さんは京大卒、医学部分子遺伝学教授からCDB創設へ、倉谷さんは京大理学部卒、岡山大学教授を経てCDB形態進化研究グループ長へ、上田さんは東大医学部卒、大学院在学中からCDBシステムバイオロジー研究グループリーダーという豪華な顔ぶれで、生物と時間についてのさまざまな謎に迫っています。生命とは何か?に始まる生物学の思想を、かいつまんで紹介しましょう。

無機物から生命体をつくる、生命科学の究極の命題が具体化し始めたのは20世紀に入ってからでしたが、1999年末ついに米国のヴェンターが、人工ゲノムをつくり、大きな話題になりました。250ほどの遺伝子を持つマイコプラズマが生命として自立したのです。
(N,U,Kは発言者の頭文字)
N:生命とは「情報を持った独立した系」で、自己として個体性を持つと考えている。
U:生命の不思議は部分と全体の問題。分子の部品からなぜ時計や時間ができるのか。
K:クマムシは絶対零度で呼吸も代謝も止め、時間を止めるが、常温でまた生き返る。
N:遺伝子の8割は、他の生物と共通性がない。生命は動的平衡だけでは語れないようだ。
オトシブミの揺籃では、葉を畳んで卵を産んで落とす、動く時間が空間化されている。
K:脊椎動物の胚発生では、体節を順番につくり、時間と空間がうまくつながっている。
ツバキなど常緑広葉樹は、凍結して組織が破壊されないよう、不凍たんぱく質をつくる。その遺伝子が発現するのは晩秋で、日照時間から寒さが来ることを「予想」している。これは淘汰を通じて生物が「時間を捉えた」瞬間ではないか。
1971年、米国のベンザーらが、「生物が時計遺伝子を内蔵している」ことを証明しました。
上田さんも2007年にショウジョウバエの時計システムの新遺伝子を発見しています。
U:「概日時計遺伝子」の出現はシアノバクテリアからで、光合成のサイクルによる。
人間では、ほとんどの器官の細胞にあるが、男性の精巣にだけない。理由は不明だ。
遺伝子発現や代謝は、概日時計に支配されている。24時間のリズムは地球の自転によって、三つのたんぱく質が光とは関係なく発振する。温度には絶対に依存してない。概日時計の正体は酵素だ。哺乳類は脳の正中隆起部に季節を知るカレンダーがある。
K:生々しい生物的環境認識は天動説による。そうでないと生物は生きてゆけない。
N:生命の時間はなぜ必要になったか。自己複製して、分子拡散を細胞内で同調させる、複数の作業を同時にこなすためではないか。時計なしにできることではない。
生命がDNAという情報伝達手段を持ち、太陽エネルギーを用いて二酸化炭素と水から炭水化物をつくり、その排ガスとして酸素が大気中に放出されました。その酸素環境を人類の高度文明が、変化させようとしています。物理的時間と生命の体内時計は別な時間を刻んでいて、情報が二重化しています。未来の時間はどのように進化してゆくのでしょうか。「了」

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