「続・100年予測」ジョージ・フリードマン著 2015年8月15日吉澤有介

先にご紹介した前著「100年予測」は、世界の20カ国でベストセラーになり、大きな反響を呼びました。
本書ではその続編として、2011年からの10年を予測しています。一般に長期予測のほうが短期予測より難しいと思われていますが、それは逆なのです。100年の間には膨大な数の決定が下されるため、その一つひとつは重要な意味を持ちません。しかし10年という短い時間枠の中では、指導者の決定が良くも悪くも大きな意味を持つのです。
1991年にソ連が崩壊して、アメリカはただ一つの世界帝国になりましたが、その10年後には9・11テロに見舞われ、危機主導の場当たり政策を繰り返しました。具体的にはイランの強大化やロシアの復活を許してしまったのです。自身が帝国になっているという自覚を持たないまま、地政学的分析や、歴史的経過を踏まえた冷徹な判断を見失ってきました。帝国らしいマキャベリ流の狡猾だが徳に裏打ちされた、さりげない力の行使ができるかどうか、アメリカは今、大きな岐路に立っているのです。
気になるのは日本への言及ですが、著者は2011年3月11日の巨大海底地震について、これを日本社会の象徴と見ています。世界には、アメリカのような社会・経済情勢が絶えず変化している「氷河型」社会がありますが、日本の場合は、普段は長い間ほとんど変化しないのに、水面下の圧力が高まり、ある日に突如大変革が起きる「地震型」社会だというのです。明治維新の産業近代化や、第2次大戦とその後の復興も、まさに地震でした。
巨大地震と中東情勢などが重なったことで、日本は自らの運命をコントロールできないことに気がついたのです。この脆弱性にどこまで耐えられるか、圧力が高まっています。
著者は、次の10年のアメリカの政策に何よりも必要なのは、古代ローマや100年前のイギリスにならって、バランスのとれた世界戦略に回帰することだといいます。そして大統領への進言として次の3原則を示しました。
・世界や諸地域の勢力均衡を図ることで、各勢力を疲弊させ、アメリカから脅威をそらす。
・新たな同盟関係を利用して対決や紛争の負担を主に他国に負わせ、その見返りに経済的利益や、軍事技術を通して、また必要なら軍事介入も約束して、他国を支援する。
・軍事介入は、勢力均衡が崩れ、同盟国が問題に対処できなくなったときのみに、最後の手段として用いる。
この原則が、もし日本が属するアジア太平洋地域に適用されるとすれば、どのようなことになるでしょうか。日中の均衡を提唱する本書は、米国との同盟関係を戦後の安全保障の不可欠な柱としてきた日本にとってはかなり不穏な内容です。しかしこれは「帝国」としての世界統治の論理に沿った「本音」とみなければなりません。日本は先回りして自己保存の戦略をとることです。また著者も気を使ってか、この日本版刊行に寄せて、日本は中国よりも有力な、21世紀の偉大な地域大国になることを疑わないと明言していました。
本書では、この10年予測で早くもイランとの和解、イスラエルとの関係見直し、EUの危機、ロシアの再浮上などを見事に的中させています。恐るべき書物でした。「了」

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