洋上風力発電  岩本晃一 著 2013年02月19日 渡辺雅樹

  次世代エネルギーの切り札としての洋上風力発電

中期的な目標として【大規模な洋上風力発電】の本格稼働、10年後を目指すべきである。一地域に100基近くを建設し、「規模の経済性」を働かせて、安価な発電コストを実現する。

洋上風力発電機の設備利用率は42%(欧州の洋上風力発電所1372基の平均値)で効率が良い。風力発電一基当たりの設備容量は大型化の一途。
現在の大型機は6000KW(羽根直径126m)。ドイツ、デンマーク、中国、

7000KWクラスは開発中。デンマーク、ドイツ、三菱重工(増速を油圧ドライブ)

将来目標の80001万KWクラス(羽根直径160m)の研究開発着手。(EU委員会プログラム)

水深が深い海域用の『浮体式風力発電設備』の開発が今後の重要課題。

着床式では50mが限界(将来はもっと深くても可能になる)で、ノルーウエー、ポルトガルで実証機による実験を行っている。

日本では、110KWの小規模実験開始し、2013年度に2000KWクラスの実証機を運転開始予定。

風力発電の累積設備容量のトップ5 (201112月時点)

・中国26.2%  アメリカ19.7  ドイツ12.2  スペイン9.1  インド6.8  日本1.013位)

日本は風力発電機(陸上)の開発で、大きく後れをとった。

洋上風力発電機では、欧州、アメリカ、中国のキャッチアップ可能だが、この23年が勝負。

浮体式の開発ならば、スタートラインにいるので、世界トップも実現可能性はある。

欧州では「国家主導で大規模な開発が進行中」。今後は陸上から洋上にビジネスとして展開。

2030年にEU総電力需要の12.816.7を、洋上風力発電で賄う計画。

アメリカは、2030年総電力需要の20%を風力発電(うち洋上風力は3.5%)とする計画。

2011年末では、総電力需要の2%が風力発電。広大な陸地への建設を7000基/年に増加する。

採算性の推計。2011年国家戦略室「コスト検証委員会報告書」では、陸上風力発電コスト9.917.3円/kWh.(2010年)→(2030年)8.817.3円/kWh.

洋上風力発電コスト9.423.1円/kWh.(2010年)→(2030年)8.623.1円/kWh.

海外における着床式洋上風力発電コスト 8~13円/kWh.
洋上風力発電のコスト(未確定アップ要因)の課題。

【海底ケーブル網の敷設】(欧州ではグリッドと呼ばれる)1km当たり1億円と想定される。

【基礎土台の設置工事と維持管理費】特殊作業船を開発して、船上からの作業性を向上させる。

【浮体式(フローチィング方式)】の工法や構造が研究開発を要する。

【蓄電池併設】の可否と蓄電池技術の未完性。NAS電池は開発途上。リチウム電池のコスト高い。

風力発電産業の雇用創出効果。風力発電設備は、2万点の組み立て産業。

設備容量1万KWあたり、160人の雇用を生み出す。(2008年試算)

日本が目指すべき「産業振興策」として「風力発電システム輸出」を国策、トップセール展開。

紹介した書籍の著者は、経産省地域経済産業グループ産業政策分析官です。技術開発の先端を経験した専門家とは違う視点で、将来の展望と政策的な戦略を研究する立場から、日本は海洋立国、エネルギー自給率向上の目的で、国の総力を挙げて、「洋上風力発電産業を生み出す必要性」を説いています。
開発の重要な初期導入費用は、まだ、緒に就いたばかりの段階では、技術的に達成可能なコストや達成時期は、概要の目標に留まることは、やむを得ないでしょう。
私見を交えて、なぜ日本は、「洋上風力発電産業」なのか、補足的に説明を加えます。
・風力発電の主力は、陸上風力発電の大型化、大規模基地化であることは、必然である。
 しかし、この方向は、アメリカ、中国、インドなど、陸上に、設置地域に出来る膨大な候補地がある『大陸国家』の場合には、当てはまる。
・日本の様に陸地が限られ、適地が少なく、大型機の設置が困難な国では、(ヨーロッパ諸国もこれに近い)、沿岸の洋上に適地を求める必然性がある。
・陸上の風況よりも、洋上の方が安定して風力資源に恵まれている。日本では、陸上の平均風速6m/s.以上の風況地域は限られている。洋上では、年間平均風速7m/s.以上を風力適地として、離岸距離10km以内、を【洋上風力発電に適した海域】としています。
・風力エネルギーは、風速の3乗に比例し、陸上平均風速6m/s.に対して、洋上平均風速7m/s.は、1.6倍に相当する。同じ性能の風力発電機を設置しても、発電量は1.6倍となり、採算性は有利である。
・陸上の風力発電機の設備利用率は、日本での平均は19%(最高でも25%)です。欧州での【洋上風力発電機】の設備利用率の平均は42%の実績です。日本近海での風力発電では、設備利用率は40%以上に出来る可能性は十分にある。採算性は、2.1倍になり、洋上風力発電設備が高くても有利になる。
・風力発電設備は、羽根の直径の2乗に比例した出力が得られる。直径160mの設備は、126mの設備の1.6倍の発電能力が得られる。
・年々大型化する風力発電設備は、陸上での設置工事が、日本では困難、または不可能になる。洋上であれば、設置工事用の専用船を建造して行える様にして行けば、大規模化にともなう、スケールメリットの効果が生まれる。
・風力発電設備を浮体式に発展した場合、造船所などの既存設備を転用して、造船工場内で完成品に組立て完了し、繋留地まで「曳航して設置」する方式に出来る。この場合の製造費、設置工事費のコストダウン効果は、かなり期待されるが、現段階での試算は見当たらない。
以上の様に、『洋上風力発電』は、現状の「マスメディア」のレベルでは、メリットが正確に伝えられていない、と思われます。技術屋、事業家の視点で、日本が海洋産業に力を入れる必要性と、再生可能エネルギーの本命である風力発電産業の育成に「国の総力を挙げて」取組むべき課題である、と提言して行く段階にあると思います。しかし、現状では、国の支援予算は100億円程度で、これではとても世界最先端の技術開発の支援には、さみしい限りと思えます。EU諸国の様に、総力を傾注しての取組に対して、遅れない様にするには、かっての『新幹線技術開発』の様な、国民の大きな後押しが必要だと思います。

    

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