書評「木工ひとつばなし」 大竹収著 プレアデス出版

作者は機械のエンジニアであったが35歳で脱サラし信州の安曇野に工房を設けて木工家具の製作に励む。
そのプロが自身で語る木と製作販売に関する話題が豊富に収められている。内容は分かりやすく丁寧な言葉で表現されている。各テーマ共に使用者側からは気が付かないことだが家具作者だから分かる内容でとっても奥が深く、納得することが多い。
木そのもの、道具、作品に対する愛情がにじんでいる。見た目より座り心地を優先する作者の「ものつくり」の姿勢に同感する。家具を使用する主婦や子供たちに是非読んで頂きたいものである。

木の不思議、木の魅力
私達は木材を建築材料や燃料として活用するという荒っぽい見方をしている。家具に使われる材料はほとんどが広葉樹で硬い材質のものが多い。製品用途により木の種類を変えている。細かく見ると木は節目、木目がありその魅力を生かすことができる。樹種も女性的な木と男性的な木に分類され特性や使われ方が違ってくる。
木は太陽エネルギーの缶詰であるとか森林は金の卵を産むニワトリというエッセイで自然界の物質の循環を説いている。
樹から木材へ使う材料はナラ、クルミ、クリ、サクラ、カバなど種類が多い。さらに板の厚みや長さの寸法取りもバラバラである。これらを材木店で揃えることはできないので丸太を仕入れて必要なサイズに自分で製材する。その後積み重ねて乾燥する。

伐採時期によって丸太の水分が変わる。春から夏の成長期には水分が多く乾燥に時間がかかるのと菌が入って腐りやすい。完全に乾く(水分12%位)のには1寸(3cm)1年とされている。割れを防いだり反りを抑えたりするのにも各種ノウハウがある。油断すると雨漏りで板を腐らせたり、虫に食われたりしてしまう。

木を加工する技
道具は自分で作るか買ってきても調整を最初からやり直して使用する。カンナの台など木製の道具は時間と共に変化する。刃物も切削する材料の硬さにより角度を変える。刃物を研いで切れ味を如何に良くするかが作業能率の決め手になる。

部品が揃い組み立てるとき設計図面通り仕上げるだけでなく、時には現物合わせが必要になってくる。これがいかに重要かということが経験を積んで理解したという。私の野良仕事は全て現物合わせ工法だが?

木工家具作りに思う
椅子の場合良いデザインとは「座り心地の良さ」である。人によって見解が違う

が彼は「見た目の良さより使い勝手の良さ」を追っている。
ひとつの椅子を作る手順について:

 コンセプトの作成/小さな三面図を作る/5分の1のミニモデル作成/原寸図を作成/型紙の作成/原寸大の試作品作成 更にここに繰り返し座り「座り心地」までチェックする。このような長時間の工程を経たあと新製品を自宅で毎日1年間使って耐久試験を済まし問題なければ合格となる。このような苦労を得てひとつのモデルが完成する。

木工稼業あれこれ
作者の販売は全て注文生産方式でやっている。店に展示したらと勧められても4割ものマージンを支払ってはやっていけない。

木工の家具作りの面白さを
(1)創造的な仕事であること
原材料から製品まで、設計から製作まですべて一人でやらなければならない。
(2)実用品を作る
現実の生活で使われ人の暮らしに役立てるものを作る。
(3)自然の素材を相手にする
人知を超えた大きなものと対話する面白さがある。
と表現している。

現在のマスプロ生産と異なり、ひとつひとつに全力をかけて作り上げるハンドメイドの姿が理解できた。値段は高くても買いたいと思えてくる。

                                                                    福島 巌 記

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