雑草のはなし  田中修 中公新書    

 わがK-BETSの佐野リポートには、バイオ燃料の原料として一般に知られたトウ
モロコシやアブラヤシなどと並んで、ススキの仲間などの雑草がよく登場する。
テキーラの原料であるアガーベという植物までバイオ燃料になるという。
わが国では藻類の検討はよく聞くが、雑草についての情報はあまり出てこないよう
である。
一般に雑草は都会でも田園でも、ただワルモノとして邪魔な存在であり、除草剤な
どで一気に退治する対象とみられているからだろう。
しかし昭和天皇に「雑草という植物はない」という有名なお言葉がある。

 身近にある彼らそれぞれに名前があり、そのたくましい生き方には生物の不思議
が満ちているので、中には人類にも有用な資源になるものもありそうだ。
この「雑草のはなし」には、そのような知見がたくさん紹介されている。

  著者は1947年京都生まれ、京都大学農学部出身の農学博士で、現在は甲南大学理
工学部教授。
 
ここにはタンポポはじめ春の七草、秋の七草、そのほか身近にある多くの植物が
出てくる。
彼らが過酷な環境のなかでしぶとく子孫を残す戦略は、どれをとってもおもしろい。
 多くの植物はひとつの花の中におしべとめしべを持っているので、簡単に受粉し
てタネをつくりそうなものだがそうではなく、できれば別の花からの花粉を望んで
いるという。
自分の花粉からタネをつくると、自分と同じ子孫を残すだけになる。
その場合にはある病気に弱いとか、隠された悪い性質が出てきたりして、その
生物が絶滅する恐れがあるのだ。

 どんな花でもおしべとめしべはお互いにそっぽを向いている。言い換えれば植
物は浮気を望んでいる家庭内別居の姿をしている。しかし花が萎れるころまでに、
ほかからの受粉ができないときには、自然におしべとめしべが接近して、仕方な
く一人でタネをつくるという。
生き残りのためにオオイヌノフグリやオシロイバナなど、皆そのように保険をか
けている。
  ホトケノザなどはもっと念入りだ。きれいな赤紫色の唇形の花が咲くが、その
ほかに蕾のまま開かない花もある。
そこでは蕾のなかで自家受粉して、非常用のタネをつくっている。またそのタネ
にはアリの好きな白い物質がついていて、アリたちに遠くまで運んでもらうという。

 また植物たちには悩みがある。昼間の太陽光を受けて空中のCO2を光合成して
いるが、日当たりが強すぎると、
CO2を吸収する葉の気孔が大きく開いて、水分
を蒸散させてしまう。
CO2の受け入れと水分損失のバランスが難しいのだ。

 しかしその中でも水草の一種のホテイアオイは猛烈な繁殖力を持っている。
2m以上の背丈でどんどん増えるため、全国の水域、水路をふさぐ厄介な植物に
なっている。とくにチッソやリンの多い生活排水や工場排水などの富栄養化水域
で旺盛に繁殖する。そこでこの繁殖力を利用して水質浄化に役立たせる試みが進
んでいる。
幸いにもこのホテイアオイは収穫して発酵させるとメタンガスが採取でき、乾燥
させれば堆肥や飼料になることがわかった。
各地で水質浄化と燃料化の試験が始まっているという。

 また同じ水草で、ウキクサが注目されている。やはり増殖力が大きく二日間で
3倍に増えて、瞬く間に水田やため池の表面を覆いつくしてしまう。
しかもその葉(葉状体)にはたんぱく質がダイズとほぼ同じ、乾燥重量の約37
%も含まれている。
成長速度はダイズの
10倍も早いから、たんぱく質の生産性は10倍になる。

 そこでこの生産性を活かしてウキクサ牧場をつくる構想がアメリカで生まれた。
家畜の飼料にして、その排泄物からメタンガスを取り出して暖房などの燃料とし、
残渣はもとの池の戻すとまたウキクサが増える。
完全なリサイクルシステム牧場になるという。

 私たち人間には3Kといわれる仕事がある。
植物にも「強光」、「高温」、「乾燥」という3
Kのひどい環境がある。
そんな恐怖の3k環境にも負けずに生きる植物がいるのだ。
それは
C4植物である。C4植物は大気中のCO2を効率よく取り込む特別の酵素をも
持っている。その名を
PEPカルボキシラーゼという。
この酵素は吸収した
CO2を取り込んで、炭素4個の化合物をつくる。
一般の植物は
CO2を取り込んで、炭素3個をつくるので、C3植物という。

 C4植物はPEPカルボキシラーゼがCO2を効率的にとらえるので、葉の気孔を大
きく開けずに大気中の低濃度の
CO2をすみやかに取り込むことができる。
水分の損失を
C3植物の半分に抑えることができるという。
水分を節約しながら太陽光をフルに利用するため、光合成効率が高いのである。

 現在地球上に生存する植物の95%はC3植物で、5%だけがC4植物となっていて
20科約1200種が知られている。
身近な雑草ではシバ、ススキ、イヌビエ、メヒシバ、エノコログサやカヤツリ
グサなどがこれである。強いわけだ。

 このほか雑草たちの光や温度に対する感度が高いこと、時間も計っていること
などの特別な能力について、まだわからないことが多いという。
雑草たちの不思議をやさしく解説してあるので興味はつきない。
一読をお勧めする。

            要約  吉澤有介

 

カテゴリー: バイオマス パーマリンク

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