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技術者がバイオマスを語る-コラム

バイオマスを技術者が語る-コラム

2010/3/29 月曜日

木とつきあう智恵   エルヴィン・トーマ    地湧社

カテゴリー: 本を読んで   by editor5 @ 15:25:32

著者はオーストリアザルツブルグ生まれ。
チロル地方の営林署に勤務のあと独立して木材加工会社を経営している。
西欧の木材産業の一端がうかがえて参考になる本である。

 

月と森と木の秘密
チロル地方には古くから
「冬の新月の時期に切った木は良質で長持ちする」
という伝えがある。
彼はこのことが事実であることを実験や偶然のできごとを通して証明する。

そのうえ森林局に働きかけ「新月の木」を良質木材の国家証明として明示
することにした。

 

木枯し
伐採した木の乾燥方法に関して。
木を切ったあと枝を付けたまま梢を下に向けて3ケ月ほど放置しておくと
良く乾燥して含水率が40~50%下がる。

枝を付けた幹はもう一度実を付けて種を残そうという生存本能に目覚める。
その結果枝に幹から水分を吸い上げ、葉から蒸発するため幹は軽くなる。
梢を下にするのも樹液を重力によって下げるためである。

 

ふさわしい場所で成熟した木
高地で生まれゆっくり成長したものが絹の肌を持つ最高級の銘木になる。
天然林は落葉樹やモミ、カラマツ、シモフリマツなどの混合林を作っている。
現在のように高度千メートル以下の場所にドイツトウヒの単一人工林が作ら
れているのは異状である。
腐葉土の成分が偏って酸度が強くなる、害虫や菌類がはびこる、嵐や積雪に
対する抵抗力を弱めるといった害を伴うことになる。

 

伐採時期
12月末から1月初旬の新月や下弦の月の頃がベスト。
月の引力がどのような作用を木に与えているのか不明であるが、木材の耐久
性が向上する上、カビなどの菌類や虫に対する抵抗力が強くなる。
楽器(バイオリン、チェロ、ギターやオオボエなど)の製作には薄くて、反
りが無く、自由に振動してよく響く最度の品質が要求される。
製作者は山に行って木を選び、新月の時期に切って充分な時間をかけて乾燥
する。
これが短いと音に落ち着きが無くオーボエなどにはひびが入ってしまう。
(注:月の引力は様々な形で生物に影響を与えているようです。ALリバー
博士のBiological Tides Theory:バイオタイド理論が参考になります)

 

オーストリアのピュアーウッド住宅
正常に育った木材を正しい時期に伐採し、貯蔵、乾燥、加工を適切に行って
家を作る。
化学物質や補助金具など一切使わずに木材だけで仕上げた暖かい、住み心地
の良い家が人気を得ている。木の香りがコクゾウムシなどの虫を遠ざける。
作者はこの住宅会社を経営して木造建築の良さを世界にアピールしている。

         記  福島 巖

  

2010/3/11 木曜日

スノーボールアース仮説(地球の全球凍結) 藤田良廣

カテゴリー: 要約情報   by editor5 @ 0:06:36

1.はじめに   
私は、NPO法人蔵前バイオマスエネルギー技術サポートネットワークに所
属しています。地球温暖化の原因である化石燃料の過大な使用を阻止するた
めにバイオマスエネルギーを活用する方策について様々な検討を行っていま
す。
実は私が中心となって単細胞藻類を培養してバイオマスエネルギーとして活用
することを考えたのですが現在まだ安定して単細胞藻類(SCB)を培養する
方法が確立されていないので壁に突き当って立ち往生しています。

今回は温暖化の逆である地球の全球凍結の話が中心です。
 地球温暖化が今日の地球の最大の問題であり、その為には二酸化炭素(CO
2)を極力減らさなければならないというのが世界的な流れとなっています。
46億年の地球の歴史を振り返ってみると40億年前の地球の大気には酸素
が殆ど含まれていなかったと考えられています。
22億年前頃に酸素濃度が急激に増加したと考えられています。
その原因はシアノバクテリアによるという考えが主流です。
25億年前から5.42億年前の原生代は地質学的証拠も多く、現在も研究が進
んでいるがこの時代の初めと終わりに全球凍結(スノーボールアース)が生
じたと考えられています。

 2.スノーボールアース 
    かつては全球凍結はあり得ないと考えられていました。一旦凍結す
れば元には戻れないと言うのがその主な理由であったようです。
しかし1992年にカリフォルニア工科大学のジョセフ・カーシュビング教
授は、スノーボールアース仮説を提唱しました。
全球凍結からの脱出も大気中のCO20.12気圧程度まで増加すれば可能で
あることが明らかになりました。
 本格的にスノーボールアースについて知りたい方は下記の本を読まれるこ
とをお勧めします。
 ◯田近英一「凍った地球―スノーボールアースと生命進化の物語」新潮社
現在明らかになっているスノーボールアイスは、原生代前期の「マクガニ
ン氷河時代」 (23億~22.2億年前)と原生代後期の「スターチアン氷河時
代」(7.3~7億年前)及び「マリノアン氷河時代」(6.5~6.35億年前)で
あると言われています。
 22億年前のマクガニン氷河時代についてはまだ不明確な点が多いのですが
原生代末期の二つの氷河期の凍結に関しては現在の地球上の温暖化―寒冷化
のサイクルが寒冷化に大きく振れたとすれば全球凍結の可能性も考えられま
す。氷河の進展を負のフィードバック作用と正のフィードバック作用とを考
えてみます。
負のフィードバックはシステムの暴走的な挙動を抑制する機能です。
地球の環境が安定なのはこの負のフィードバックの効果(ウォーカ
ー・フィードバック)によると言われています。
例えば火山の噴火により多量のCO2が排出されても地上の珪酸塩鉱物の
風化が作用して急激な大気の炭素増加には繋がらないのです。
 逆に氷河が広がってきた場合には氷は光の殆どを反射して吸収される
エネルギーは少なくなります。
これは正のフィードバックであり氷河の生成をどんどん進める側に作用
します。
氷河がある程度以上に進行すると正のフィードバックが進んで全球凍結
の状態になります。
 

3.スノーボールアースからの回復
   いったん全球凍結になると、大気と海は完全に遮断され大気中の
炭素は海へは供給されない状態となります。従って大気中のCO2濃度
はどんどん上昇の経過をたどることになります。
 前にも述べたように、CO2の圧力が0.12気圧を超えると温暖化
現象により氷が溶けだしスノーボールアースは解除されます。
スノーボールアースの状態の大気温度が約-40℃であったのが、一
転して上昇し最高60℃まで上昇すると予想されています。
最大100℃の温度変化が生じる事態です。
単細胞生物であればこの様な温度の変動に充分耐えられることは分か
っていますが、体の組織が複雑化した多細胞の生物がこれに耐えられ
るはずがないであろうと考えられる。
 スノーボールアースの状態から大気中のCO2濃度が0.12気圧にな
るまではおよそ400万年程度と言われています。
氷が溶け出す時間はおそらく数百年か数千年程度で全ての氷が溶け
てしまうと考えられる。
これは通常の気候変動ではなく明らかに気候ジャンプと呼ぶべき異
常事態の発生です。
最後のスノーボールアースの時には、真核生物である緑藻、紅藻、
褐藻などの藻類の仲間が出現しておりこの大氷河時代を生き抜い
たことがわかっています。
しかし、この様な過酷な状況を如何にして真核生物が生き抜いた
かに付いてはまだよく分かっていません。
化石として残る骨格などがないこれら藻類の生存証拠はなかなか
残存しづらく確証が得られません。
 スノーボールアースの最盛時の海の氷の厚さは1000mと言われ
ていますが一部にはもっと薄い氷が存在した可能性が指摘されて
います。
現在の南極大陸には多くの湖が存在していますがドライバレー
と呼ばれる大変乾燥した地域に見られる湖の氷は予想より遙か
に薄いそうです。
理論的に予想される300mに対して実際は5mしかないそうです。
しかもこの氷の透明度は非常に高く太陽光が湖底まで達して氷
の下で光合成生物が活動しています。原生代末にも同じ様な状
況が生じたとすると、この様な場所に藻類が生育してその子孫
が現在の各種植物の先祖となることは充分に考えられます。
 しかし、―40℃から60℃の世界という極端な条件を生き
ぬいた生物はわずかであり多くの生物種は絶滅をしたと考えら
れる。
化石では確認できない大量絶滅が存在したことは明らかであろ
う。
 これらについての地質学的な様々な進展は、地球の進化の究
明として近年多くの進歩が発表されている。

 4.生物の大進化
   カーシュービンク博士は最初のスノーボールアースの原
因はシアノバクテリアであるという説を唱えている。当時の温
暖化ガスの主役はメタンガスでありシアノバクテリアの活動が
盛んになるとメタンは新しく生成された酸素により酸化されて
温暖化ガスの機能を無くしてしまう。
これ以降は生物による酸素の製造が継続して続くことになりメ
タンは地球温暖化の役割を二酸化炭素に譲り渡すことになる。
しかし地球上の生物の大進化の端緒はシアノバクテリアの活躍
であることは明らかである。

 最後のスノーボールアース・イベントであるマリノアン氷河
時代(6.65~6.35億年前)の直ぐ後の5.8億年前に
エデイアカ
ラ化石生物群の大発生が起こります。この動物群はそのまま後
に繋がるものは無かったもののその後の生物に繋がる基本の形
は殆ど揃っておりこの時期で進化の方向はほぼ出来上がってい
たと考えられている。
 エデイアカラに引き続くカンブリア紀の動物は、今に繋がる
として理解される生物群となって今に繋がっています。化石の
存在で確認される生物の進化の時代はこの辺りから始まるとも
いえるようです。
 大気中の酸素濃度が、約22億年前に急激に増加した後約6億
年前にも急激に増加したことが以前から認識されていたがこ
の酸素の増加が生物の大進化に繋がるのではないかとの考えが
浮かび上がってきている。
地球の環境は今までは自然が(神が)決めていたモノであっ
たが、今は人間の行為が環境を決める時代になろうとしていま
す。我々人間は謙虚に自己の力を見つめて対応を考えるべき時
に直面しているのだと認識しなくてはならないでしょう。

  

2010/3/10 水曜日

 「強い者は生き残れない」    吉村仁著  新潮選書

カテゴリー: 本を読んで   by editor5 @ 22:44:33

環境から考える新しい進化論
著者はかって「素数ゼミの謎」(文芸春秋)で新しい進化論を展開した数理
生物学者です。
その環境不確定性進化理論は、現在欧米の進化論学界で大きな注目を集めてい
るそうです。
本書では、環境変動が生物の進化に対してどのように関わってきたかについ
て、多くの事例について検証し、創造的な発想で自由奔放に論旨を展開してい
ます。最近の進化論を学ぶ好著として一読をお勧めします。
人間も生物なのです。地球の生物は40億年前に発生して以来、環境の変化と
ともに「進化と絶滅」を繰り返してきました。
人類も決して例外ではありません。その端的な例が企業の経済活動でしょう。
環境の変化に対応して、生き残るとはどういうことなのか。
本書では、現代の進化論=総合学説の「適応度の高い者、すなわち強い者が生
き残る」に対して、さまざまな生物の長い歴史から、現在生きている生物は決
して「強い者」ではないこと、環境変化に適応して「他者と共生・共存する」
者が生き残ったと述べています。
ダーウィンは個体の変異に注目して、より環境に適応した個体が生き残ると
いう「自然選択」理論を提唱しました。しかしここでは環境という概念がまだ
明確でなかったために、環境変化への適応は軽視され、適応度だけが問題とさ
れてきたのだそうです。環境変化は例外とみられてきました。また「自然選択
」では、自分に不利になるのに「利他行動」することの説明がどうしてもつか
なかったのです。
それらの問題については、近代に入ると「ゲームの理論」が盛んに応用され
るようになりました。ゲームの理論は、囚人のジレンマなどで皆さんもよくご
存じでしょう。
ここで進化的安定戦略の概念が生まれて、進化における最適の行動パターンが
浮き彫りになってきました。ハチやシロアリなどの行動も説明できるそうです。
すべての生物は環境変化に必死に対応します。
最適化するよりも保険をかけたり、リスクを分散させたりする戦略をとりまし
た。一夫一婦のはずのトリのつがいでも、メスがこっそり浮気して、別のオス
の卵を産んでDNAを分散させているのだそうです。
厳しい環境変化があったときは、単独でいるよりはさまざまな仲間と一緒の
ほうが有利になります。多細胞生物から植物群落、熱帯雨林などもそうです。
協力しあって生き残る共生の進化史が続いているのです。
カンブリア大爆発も5大絶滅も、生き残った生物はこの共生とお互いの協力がカ
ギでした。同時にまた生物は一人勝ちを防ぐシステムをつくり出しています。
単なる強者が勝つのではない、実に巧妙な戦略をとってきたのです。
人間社会では、この存続のためのルールよりも利益の最大化をめざしたため
に、破綻と絶滅を繰り返しています。経済学はなぜ間違ったのでしょうか。
それは富の有限性を無視したからなのです。生物はつねに資源の有限性のもとに
行動してきました。コリン・W・クラークは新しく生物資源経済学を提唱していま
す。これは良い示唆になることでしょう。
         記 吉澤有介

  

「イタヤカエデはなぜ自ら幹を枯らすのか」 渡辺一夫著 築地書館

カテゴリー: 本を読んで   by editor5 @ 22:30:35

樹木の個性と生き残り戦略
 著者は東京農工大大学院卒の農学博士で、森林インストラクターとして活動してい
す。
主に関東近郊の山を歩き、山や川をつくる大地の力やと樹木のしたたかな生き方

に興味を持ってきました。著書に「森林観察ガイド」(築地書館)などがあります。
その森林エキスパートが、日本を代表する樹木36種についてそれぞれの個性と多様な
生き残り戦略を、樹木の立場からみて解説した異色の本格的ガイドです。 
一読して日ごろ親しんでいた身近な樹木たちが、こんな苦労をしてこんなに素晴らし
い戦略を編み出したのかと驚くばかりでした。森林の成り立ちを考える参考書として
お勧めします。
樹木も人間と同じように、一生のうちにいろいろなことがあります。台風も来れば虫
にも食われ、なおかつライバルとの厳しい競争を勝ち抜いて子孫を残してゆかなけれ
ばなりませんが、それぞれの生き方は実に個性的なのです。その二三の例を挙げてみ
ましょう。


「アラカシ」は、たとえ急峻な崖であってもしがみつくように根を張って育つ、生命
力の強い樹木です。種子のドングリは毎年たくさんできて、縄文人も好んで食糧にし
ていました。67年に佐賀県の坂の下遺跡から出土したドングリは何と4000年の眠りか
ら覚めて、いま佐賀県立博物館の庭ですくすくと育っているそうです。アラカシは最
終氷期から暖かくなってきたときに分布を拡大してきた常葉樹ですが、縄文人たちが
焼畑などでその生育を妨げてきたという受難の歴史があります。そこで乾燥に強いア
ラカシは急な崖や石灰岩地などの、ほかの樹木の来ない場所に住みついてきました。
そこは人の手も入り難かった利点もあったのです。いまは里山の落葉樹が放置されて
いるので、これまで苦労してじっと待っていたアラカシに、分布拡大の絶好のチャン
スがきているそうです。

「ムクノキ」はどこにでもある落葉樹ですが、暖かい場所が好きです。しかしそこは
常緑樹が優勢なエリアなのです。日陰に弱いムクノキがそこで生きてゆくために、撹
乱を利用する戦略をとりました。森の中ではなく、河原のような裸地を狙って先駆す
るのです。そこは数十年に一度の洪水が来ますが、そのあとはしばらく安泰です。鳥
が運んだ種子はそこで素早く発芽して生長します。やがてタブノキなどの常緑樹が侵
入してきますが、またその頃に大洪水がきて新しい裸地ができるので、ムクノキにま
たチャンスが来るというわけです。落葉樹は一年のうち半分しか光合成ができないの
で、短期間に高い生産性を挙げる必要があります。そのため耐久性や虫よけまで犠牲
にして、葉を薄くしてコストを削っています。したがって日陰に弱く、暗い常緑樹の
森の中ではなかなか辛いのです。しかし森のなかでも少数ながら安定して生きている
こともあります。鳥に運ばれたムクノキの種子は、暗い森のなかの土中で休眠し、や
がて頭上の樹木が倒れて明るいギャップができると、すかさず生長してその場所を占
有するのです。しかも長寿ですから安定して子孫を増やすことができます。ムクノキ
の多角的戦略は実に見事といってよいでしょう。

 「イタヤカエデ」はあまり大きくならずに亜高木として生きています。ブナやミズナ
ラの日陰になるので、水平に枝を出してすべての葉で光を受けます。その葉も一斉に
つけてできるだけ長持ちさせ、弱い光を利用して光合成を行うのです。葉の構造もム
ダを省くために薄くし、製造コストと維持コストを低く抑えています。日陰に生きる
イタヤカエデにとって、コスト削減は生命線なのです。

林内で発芽しても、そこがあまりにも暗いときにはいつまでも大きくなれません。と
きには十年も稚樹のままということもあります。さらに光合成のエネルギーが枝葉を
維持するエネルギーに足りない時、つまり収支が赤字になったとき、イタヤカエデは
ここで大胆なリストラを実行します。思い切って地上の部分をいったん枯らしてしま
うのです。根だけは生きていますから、機会が来れば身軽になってまた新しく発芽し
て生きるのだそうです。またイタヤカエデは春先のほかの落葉樹が葉を出さないうち
に、一斉に葉を広げて春先の二カ月だけで集中して光合成を行います。とにかく必死
に知恵を働かせているのですね。
そのほかトチノキのように、ハナバチやリスとうまく付き合って子孫を増やしたり、
ブナのように深い雪を味方につけて北国で一人勝ちしていること、針葉樹についても
それぞれの個性があるなど、興味の尽きない豊富な話題をつぎつぎに提供してくれま
す。ぜひ一度ご覧になってみてください。
         記  吉澤 有介

  

「CO2と温暖化の正体」 S・ブロッカー著 河出書房新社

カテゴリー: 本を読んで   by editor5 @ 22:18:11

何やら怪しげな表題ですが、原書ではFIXING CLIMATEで、ごくまじめな科学物
語です。もとの意味からすると「気候の修復」ということなのでしょうか。
本書は現代最高の気候学者の一人である、米コロンビア大学のウオレス・
S・ブ
ロッカー教授(
78歳)の半世紀にわたる気候学研究を、気鋭のライターのR・ク
ンジグが一般向けに記述したもので、
550ページの大著です。
ブロッカーの気候学における大きな功績は、気候というものがいかに不安定なも
のかを証明し、そのトリガーとして海洋循環が大きいと示したことです。
気候には氷期~間氷期という二つの安定したモードがありますが、それが突然急
激に変化することが起こりうるのだそうです。
そこには海洋が大きく関係しています。
その要因として海洋が
COを吸収して大量の炭素を貯留し、それを海洋循環によ
って大気に移動することで、気候変動の調整をしているというのです。
その壮大な海洋循環モデルは「ブロッカーのベルトコンベアー」と呼ばれ、最終
氷期に起きた急激な気候変動を理論的に解明しました。
地球温暖化についてはさまざまな論争がありますが、本書ではそれらの先入観を
一たん忘れて、多くの研究者による気候科学の歴史を実に丹念に辿っています。
そのスタートは第一次世界大戦中のセルビアの科学者ミランコビッチの研究でし
た。彼は地球の軌道の微妙なブレが日射量の変化となり、
22千年から10万年ま
でのいくつかの周期で、大きな気候変動が起きるとしたのです。
氷期の要因を探るその研究は、大戦中にオーストリアの捕虜となった独房で生ま
れました。
1917年に発表されたこの研究に、ウェゲナーやケッペンも乗ってきた
そうです。しかし実証されないままその後長い間忘れられていました。
それが復活したのは地質学的な年代測定法での実証だったのです。
ブロッカーはその放射性炭素による年代測定法の専門家でした。
彼はミランコビッチに夢中になり、再計算で確かめ、さらに軌道周期とともに
CO
が大きく関わっていることを見出しました。
その実証に各地の氷河のモレーンの地質や、サンゴ礁の地道な炭素測定を重ねて
います-
1972年のことでした。またそれより前の1957年に、レヴェルやスースが
COガスが温室効果を持つことを提唱して、「こうして人類はいま、過去には起
こりえず、将来にも再現されないだろう大規模な地球物理学の実験をおこなって
いるのだ」という名言を述べています。
その
CO測定にあたったのが、カリフォルニア工科大学を出てノースウェスタン
大学で博士号をとっていたキーリングでした。
いわゆるキーリング曲線に至るその苦労はたいへんなものだったそうです。
また同じころコロンビア大学の地質学部で学位をとったばかりの高橋太郎も、海
COを吸収しているかを確認するために、小型船でひたすら海水をくみ上げて
ブロッカーに深層水放射性炭素年代測定資料を提供し、また自分でも大気と海洋
の炭素交換を測定して
COの海洋~大気循環の実証に貢献しました。
ブロッカーはさらにグリーンランドや南極で氷床のコアをとって測定を重ねてい
ますが、その測定技術の進歩には驚くばかりです。
このような多くの科学者の地
道な研究によって、氷期の実態や過去の大干ばつなどの気候大変動が次々に解明
されてきました。
そして僅かの
COの変化が海洋の循環に影響して、大きな気候変動を引き起こす
恐れがあるというのです。ブロッカーは「気候は突然、野獣に変わり、われわれ
に牙を向くことになる。それはある程度予想はできるが、まだわれわれは知らな
いことばかりだらけである」と述べています。
気候修復のためのいくつかの提言もありますが、すっきりした解決にはまだまだ
道は遠いようです。
                                                    記     吉澤 有介